■夕方は雨が降るから

「お父さん迎えに行ってきて」

 天気予報が降水確率を高めに告げて、母が僕にそう告げた。
 少し大きめの緑の傘を持たされた僕は、仕事帰りの人々が行ったり来たりする黄金駅西口の改札前に立って、いずれ群集に混じって改札を通るであろう父の姿を探していた。
 すると、ふと僕の隣に何者かの影が並んだ。
 見ると赤い水玉の傘を持った鋭い牙の青いポケモンが立っていて、僕はちょっとビクッとした。
 実を言うとポケモンは苦手なほうなのだ。
 そいつはどちらかというといかつい顔をしていて噛みつかれそうでちょっと怖い。
 隙を見てすうっと離れようかと思ったのだが、いつのまにか反対側にもピンク色のいかついポケモンが陣取っていて、僕と目があった。
 それで僕はなんとなく逃げ場がなくなってしまったのだった。
 そんなこんなで二匹のポケモンに囲まれながら父を待っているうちに、いつのまにかムキムキのオタマジャクシやら、四本腕のマッチョやらが僕の後ろに陣取って、ますます身動きがとれなくなる。
 この地方ではあまり見かけない毒蛙(だったと思う)やツボミのポケモンまでもが傘を持って誰か待ちに加わって、僕の周りはある種、異様な雰囲気になった。
 繰り返しになるが、僕はポケモンが苦手なほうなのでこの集団からはさっさとおさらばしたいのだが、どうにも足が動かない。タイミングがつかめない。
 いや、そのなんだ?
 別に離れようと思えば離れられるんだけど、回りの雰囲気がそうさせないというか。
 それにほら、追っかけてくるデルビルに対して、走って逃げると奴らますます追いかけてくるじゃないか。
 再三言うがポケモンが苦手な僕は、言うなればそんな感じで動けなかった。

"待ち人来るまで持ち場を離れるべからず"

 この集団の中にはそんな暗黙のルールが存在するように思われたのだ。
 その場を離れるには正当な理由が必要だった。


 そんなわけだからお父さん、早く帰ってきてください。








黄昏テレフォン152 / 202