●車窓から(対向車線編)
反対車線。 サブウェイでバトルを続けているとギアステーションに戻る反対車線の車両とすれ違う事がある。 そんな時に何かを見てしまった……という報告も大変多い。 <車両の二人> 「僕が見たのは乗客二人……正確には一人と一匹ですね」 リックさんは語る。 「反対車線に列車がきてね、一瞬見えたんですがね、スリーパーがね、少女の手を引いていたんです。背の高いスリーパーが五歳くらいの女の子と手をつないで、後ろ姿でね。すごくその身長差が対照的でね。他には誰も乗っていない。他の車両にも。なんかこう、異様な感じでした。普通に考えたらトレーナーとそのポケモンなんでしょけど、あれはちょっと、こう、ね。僕の勘違いならいいんですけどねえ」 <自分> こんな話もある。 「私が見たのは自分でしたね。最初はこう鏡でも見てたのかと思ったけど、明らかに向いてる方向違うし。一心不乱ににね、バトルしてましたよ。持ってるポケモンも同じで」 ドッペルゲンガーという奴だろうか。 「でも幸いにその後、死んだとかはないですよ。現にこうして話しているわけだからね」 対向車線にいる自分を見たという話は多数報告されている。 中には過去の自分だったり、自分と目があったりなどシチュエーションも様々だ。 中には年老いた自分を見たという話もある。 年老いているが、自分の事だからわかる、という。 <懐かしい友人> 「久ぶりにね、友人の姿を見たんです」 ジェントルマンのラッセルさんは語る。 「懐かしくてね、反対車両ごしに一生懸命声をかけたんですけど、さすがに気づいてもらえなかった。まあ、走行音もうるさいし、仕方ないよね」 いてもたってもいられなくなったラッセルさんは、乗っていた車両から下りて次に来た列車でギアステーションに引き返した。もしかしたら、友人がいるかもしれないと思ったからだ。 「残念ながらいませんでした。もうステーションを出ちゃったのかな。まあ、仕方ないかなって思っていたら、私気が付いてしまって。あ、あいつもう去年に死んでたわって」 歳を取ると物忘れが激しくていけませんね。 ラッセルさんは屈託なく笑った。 <ぼくのだ> ケリーが見たのは、対向車両に乗っていたポケモン達だった。 もう少しでカナワタウンに到着、という頃だった。列車はずいぶんとゆっくり走っており、対向車の中はよく見えたという。 種類は様々だった。ミネズミにハトーボー、ハーデリアにバオップ、ペンドラー……その多くはイッシュで手に入る標準的なポケモン達だったがそのうちに彼は気が付いてしまった。 これ、ぼくのポケモン達じゃないか……。 ボックス1、ボックス2、ボックス3……その車両数はケリーが使っているボックスの数だけあって、対応する車両にそれぞれボックスに入れているポケモン達が同じように乗車していたという。 <車両に詰まっていたもの> 一時期、こんな問い合わせがサブウェイに多数寄せられた事があったという。 「サブウェイは普通車両で貨物の扱いを始めたのか」 「しかしあれはあんまりではないのか」 「いくらなんでもひどい」 問い合わせの電話越しで相手が言う。 対向車線を走っていた車両にはポケモンのタマゴがぎっしりと詰まっていた、と。 貨物用の車両ではない、普通車両に、だ。 もちろん過去から現在に至るまで、サブウェイでは普通車両で貨物を扱っていないし、サブウェイ側も否定を貫いている。 |