●ぼんぐりの割れるとき


「ぼくのお父さん」  月宮こうすけ

 ぼくのお父さんは考古学者です。
 考古学者は大昔の人々がどんな生活をしていたかをしらべるのがおしごとです。
 なにを食べて、なにを考えていたのか、どんなことによろこんで、どんなときにかなしんだのか、どんなところに住んで、どんなポケモンたちとくらしていたのか、どんなものを作って、どんなねがいをこめていたのか、そんな大昔のなぞをといたり、考えたりするのが考古学者のやくめなのです。
 お父さんは、あたたかい時は遺跡の発掘をして、さむい時は発掘のせいかをまとめて論文を書いています。発掘は大昔のことがみんなの目に見えるようにするおしごとです。論文を書くことはなにが分かったのか、みんなに分かるようにするおしごとです。どちらも考古学者の大切なおしごとです。
 お父さんはいそがしくて家にかえってこれないことも多いけれど、かえってくるとぼくに大昔の話をたくさんたくさんしてくれます。
 この前は大昔の人々がやっていたぼんぐりのおまじないについておしえてくれました。
 ぼくはそんなお父さんのことが大好きです。
 ぼくも大きくなったら、お父さんのような考古学者になりたいです。

「おまじないを教えてあげよう、コウスケ」
 考古学者だった父。
 忙しくてあまり家には帰ってこなかったけれど、たまに帰ってくると「大昔の話」を聴かせてくれた。今思えば、父の推測の域を出ない話も多かったのだけど、僕はそんな父、そして父の話してくれる話が大好きだった。
「おまじない?」
 そう僕が尋ねると
「昔々の人達がやっていたおまじないさ」
 と、父は言って、ぽんと僕の手に丸くて大きな木の実が乗せられた。
 この木の実は「ぼんぐり」だ。クヌギに似た形をした木の実で、大きさは握り拳くらい。黒い色をしたこのぼんぐりは「黒ぼんぐり」と呼ばれている。たくさん出たから、一個貰ってきたのだと父は言った。
「大昔、すでに人々はポケモンを持ち歩く方法を知っていた。それは前に話したね?」
「うん」
 僕は返事をした。
 ぼんぐりという木の実は昔のモンスターボールだ。この木の実の中身をくりぬいて空洞にする。するとどういう訳か、ポケモンを収納する事が出来るという不思議な木の実だ。
 木の実でない素材のモンスターボールが量産されるようになった今でも、このぼんぐりを使って、モンスターボールを作る職人が居るのだと父さんは教えてくれた。
「普通、ぼんぐりはポケモンを入れるものだけれど、昔の人達はポケモン以外のものも入れていたんだよ」
「ポケモン以外のもの? これにポケモン以外のものなんて入るの?」
 またまた僕は尋ねる。
 ポケットモンスター、縮めてポケモン。彼らは、ボールに入れて、ポケットに入れて持ち歩けるからそんな名前がついている。いや、正確にはそんな事が可能な生き物を総称してポケットモンスターと呼んでいる。通常、モンスターボールはポケモンを入れるものだが、最近は道具をしまえるタイプのものも開発されているとかいないとか。
 けれど、ぼんぐりで作ったボールはポケモンまでにしか対応していないはずだった。少なくとも僕の知識の上では。
「昔の人達の墓から、大量の加工ぼんぐりが見つかっているんだ」
「死んだポケモンを入れて埋葬したのかな」
「いや、それがね。中を割って見てみたらみんな空だったんだよ」
「どういう事?」
 僕はまた尋ねる。すると父さんは
「だから私はこう考えているんだ。大昔の人々はこれに感情を入れたんじゃないかとね」
 と、言った。
「パッと見た目には何も入っていない。でも、感情は目に見えないからね。だからお父さんはこの中に入っているのは、昔々の人々の感情、想いや気持ちなのだと考えているんだ」
 変な事を言うなぁ、と僕は思った。
「生きていると、嬉しい事や楽しい事がたくさんあるけれど、きっとそれと同じくらいに、悲しい事やつらい事もある。誰かを恨んだり、憎んだりする事もある。時には受け止めきれないくらいの、悲しみや憎しみを抱く事もあるだろう。そんな時、彼らはこれを使ったんだ。嫌な事を忘れたり、悲しみや憎しみを軽くするために」
 父は僕から僕の手の中にあるぼんぐりに視線を移し、言った。
「自分を苦しめる負の感情をこのぼんぐりの中に入れた。そして、もう二度と出てきて自分を苦しめないように地中深くに封印したんだ。頑丈な柩の中に入れてね」
「……本当にそんな事で、嫌な事を忘れられるの?」
「それはどれだけ深く信じているか、だな。一種の自己暗示だね」
「僕にはそうは思えないけどなぁ」
「ははは。まあ、昔の人達って、現代人よりは信心深いというか、悪く言うなら迷信深かったろうからね。でも、強く信じれば本当になるってね。思い込みって案外侮れないものだよ」
「そんなものかなぁ」
「それにね、あんまりそういう気持ちを溜め込んでいると、悪霊に魅入られてしまうんだよ。だからこうして心に折り合いをつけたんじゃないかなぁ」
「……それも、昔の人が信じていた事?」
「そうだよ。ほら、今だって病は気からって言うじゃないか。似たようなものさ」
「うーん、よく分からないや」
 ぼんぐりの黒を見つめながら、僕は気のない返事をした。
「だからコウスケ、この先、耐えられないほど悲しい事やつらい事があったら、そこから生まれる感情はみんなこのぼんぐりの中に入れてしまうといい」
「それが、おまじない?」
「そう、おまじない」
「ふぅん……」
「もちろんそんな事、起きないに越した事は無いけどね」
 そう言って父はもう眠いのか、ふあっとあくびをして、毛布で顔を覆った。気が付けばずいぶんと時間が経っていたようだ。カーテンの隙間から夜空を見る。夜は更け、空を支配する闇は一層深くなっていた。
 寝息を立てる父の横で、僕は天井に向かって腕を伸ばすと、黒ぼんぐりをかざして再び見つめた。
 ――悲しい事、つらい事があったら、感情はぼんぐりの中に……。
 僕はなんだか馬鹿らしいなぁと思いながらも、僕の手に握られたぼんぐりの、この夜の闇のような深い黒を見つめていると、なんとなくそんな気がしてきたのだった。
 父が話してくれた昔の話で、きっと忘れたものなんて無いけれど、その時の話は僕の胸に強く強く焼き付いた。
 あの事件が起こったのは、そんな話を聞いてからそう経たない日の事だった。

「教授、また例の場所から出ましたよ」
「そうかい、じゃあ事務所に運んでくれる?」
「例の柩ですね。この前と同じものだと思いますが……開いてみますか?」
「ああ、そうしよう」
「また、ぼんぐりの山ですか……。うーん、やっぱり中身は空みたいですね。一体何のためにこんなに埋めたんだろう」
「ああ、それなんだけど、私なりに仮説を立ててみたんだ。あくまで僕の想像の域を出ていないんだけどね。もう、息子には話したんだけど、それは……」
「ツキミヤ教授!」
「どうしたの?」
「その、ミナモテレビの方が、教授にインタビューしたいと来ているんですけど……」
「取材? こんな所に?」
「ええ、それが、何でも……」
『ツキミヤ教授! 一言コメントを!』
「ちょっと! 勝手に入ってきちゃ困るよ。ここには、」
「いいよ、お通しして。それで私に話とは?」

『こちらの発掘現場ですが――――の発見の件、ツキミヤ教授が捏(ねつ)造(ぞう)≠指示したとは本当でしょうか!?』

 その日から、父のいる現場には、取材陣が大勢押しかけるようになった。
 報道は熱を帯び、ニュースはホウエン中を駆け巡った。
 父は家に帰ってこなかった。

『見てください! 現場はこのように報道陣でごった返しています。渦中のツキミヤ教授はどうやらこの事務所の中にいるようですが…………現場のエンドウさーん』

 朝も、昼も、夜も、テレビでは同じような事ばかりをオウムがえしみたいに繰り返していた。
 みんな口を揃えて同じ事を言った。
 ――ツキミヤ教授は嘘吐きだ。
 無いものをあると言って、埋まっていないものを埋まっていると言って、発掘の資金を、国の予算を騙し取ったんだって。
 僕は信じない。
 父さんは考古学者という仕事に誇りを持っているんだ。
 大昔の事を誰よりも知ろうとする事に一生懸命な父さんが、そんな事するものか!

「おまえのとうちゃん、うそつきなんだってな」
 僕の背後からそんな声が聞こえた。同じクラスの子達だ。三人か四人いたと思う。
 みんなニヤニヤと顔に笑みを浮かべていた。すごく嫌な顔をだったと覚えている。
「うそつき!」
「ウソツキ!」
 いつのまにか囲まれていた。
「ちがうよ! 父さんは嘘吐きなんかじゃない!」
 僕は叫んだ。
「テレビでいってたぞ! おまえのとうちゃんがうめたって!」
「ほんとうはないのにうめたって!」
「それをほりだして、うまってたってウソついたって!」
「みんないってるぞ」
「みんないってるぞ」
 クラスメート達はさらに詰め寄った。
「そんなの嘘だ! 父さんはそんな事しないもの!」
 僕は必死で訴えた。けれどもその叫びが彼らに届く事は無かった。

「ほら、あの子よ」
「ああ、あの子があの…………」
「お父さんがあんな事したばっかりに、可哀想ねぇ」
「でも、あの子も何か変わり者っていうか……うちの娘が同じクラスなんだけど――」
「そういえば、父親にそっくりよねぇ」
 クラスの子も、大人達もみんな言う事は一緒だ。みんな同じ顔をして、みんな父さんを嘘吐きだと言ってる。誰も父さんの事なんか信じちゃいない。
 みんな同じだ。

 あれから何日経つだろう。
 父さんはまだ家に帰ってこない。もうずっと顔を見ていない。
 会いたい。会って父さんにこう言うんだ。
 父さん、僕は信じてるよ。みんなは信じていないかもしれないけれど、僕は信じているよ。
 父さんは、嘘吐きなんかじゃないって。


 ジリジリと夜遅くに電話が鳴った。
 最近、うちにはよくいたずら電話や無言電話がかかってくる。でも線は抜かない事にしている。だって、父さんから電話がかかってくるかもしれないからだ。
「もしもし、ツキミヤですが」
 僕は受話器を取った。
 けれど残念、今回もハズレだった。
 受話器の向こうにいるのは父さんじゃなかった。でも、悪意を持った相手でもなかった。
「夜分遅くすみません、わたくし、カラスムギと申しますが」
「カラスムギ……? もしかして父さんの!?」
「あ! もしかして君、コウスケ君かい? そうだよ、君のお父さんの助手のカラスムギだよ。君の事はよくお父さんから聞いているよ」
「あの、父さんは? 父さんはどうしているんですか!? もうずっと家に帰ってこなくて……」
 僕は藁にも縋る思いで尋ねた。
 けれども、受話器の向こうから聞こえてきた答えに僕は愕然とした。
「え? 教授はまだそっちに帰っていないの……? だって、教授は三日前に、一度家に戻るって言って出て行ったきり…………」
「…………え?」
「そうかい……帰ってきていないのかい……じゃあ、教授は一体どこに」
「そんな! そっちに父さんは居ないんですか!? それじゃあ、父さんはどこに行っちゃったんですか!」
「ごめんよ、僕にも分からないんだ。家に帰ったものだとばっかり思っていたから。でもずっと連絡がなくて、心配になって……」
「…………そんな、そんな事って」
 やっと、やっと父さんに会えると思ったのに、こんなのって……。
 たぶん、その時の僕の声は、涙声になっていて、震えていたんだと思う。
 カラスムギさんが僕を落ち着かせようと、一生懸命何か言っていた気がするけれど、なんて言っていたのか、思い出せない。
「と、とにかくお父さんがこっちに来たら連絡するから、ね? 君も教授が帰ってきたら一度連絡貰えないかな」
「……はい…………」
 僕は力なく返事をした。
「じゃあ、切るよ。また連絡するから……」
「あ、あのっ……!」
「どうしたの?」
「そ、その、父さんはどうなっちゃうんでしょうか……」
「え?」
「大丈夫ですよね!?」
 縋るように僕は尋ねた。
「………………」
「だって父さんは嘘なんか吐いてないもの!」
「コウスケ君……」
「きっと研究、続けてくれますよね!?」
 確認するように僕は尋ねた。
「コウスケ君、あのね」
「だって、父さんは立派な考古学者だもの……」
 だってそうだもの。お父さんは嘘なんか吐いていないんだから。
「…………コウスケくん、よく聞くんだ。今から僕の言う事は君にとっても、君のお父さんにとっても残酷な事かもしれないけれど、ちゃんと聞くんだよ」
「…………?」
「君のお父さんは学会から除名されたんだ」
 ……、………………。
 一瞬、あたりが無音になった気がした。
 除名。明確な意味を知っていた訳じゃないけれど、だいたい意味が分かってしまった。
 父さんは外されたらしい。学会の事を父さんは研究者の集まりだと話していた。どうやらそこから父さんは外されたらしいのだと。
「……嘘だ」
 僕は言った。
「嘘だ。そんなの嘘だよ」
「嘘じゃないんだ。もう、お父さんの研究は終わったんだよ」
「何、それ……」
「発掘は凍結されたんだ」
「うそだ」
「ごめんよ、嘘じゃないんだ。僕も別の先生の発掘現場に派遣される事になったんだ」
「っ……どうして!」
「コウスケくん、」
「どうして、どうして、どうして、……なんで! どうしてだよ! 父さんは嘘なんかついてないのに!! どうしてみんな信じてくれないの!? 父さん言ってた。今度昔の人がやっていた呪術について書くんだって。カラスムギさんだって聞いたでしょ! 父さんからぼんぐりの話、聞いてるでしょ!」
 僕は叫び続けた。
 父さんがどんなに研究を愛していたか、父さんがどんな事を僕に教えてくれたか、そして、父さんが教えてくれた、ぼんぐりのおまじないの事を……。
 カラスムギさんは黙って聞いてた。ずっとずっと黙って聞いていた。
 でも、最終的に受話器の向こうから返ってきた答えは、素っ気無いものだった。
「コウスケ君、これはもう決まった事なんだよ」
 世界が反転して、頭から天井に落下した気がした。
 後で考えれば、その時に僕の中にある何かが目を覚ましてしまったのだと思う。
 それは黒い何かだった。何か黒いものが僕の奥底から沸き上がって言った。お前がそうなるのを待っていたのだと。
 それはおかしな気分だった。体が熱くて、頭がぼうっとしたような。けれど、それでいて、僕はどこか落ち着いていて。
 それで、僕は受話器の向こうに問いかけた。
「…………あなたもみんなと同じなの?」
「え?」
「父さんの事、嘘吐きだと思っているの?」
「コウスケ君、」
「どうなの?」
「コウスケ君、僕は」
「…………そう、思っているんだ?」
 何か黒いものが僕の奥底から沸きあがって、僕を支配した。
 そうして、僕は無機質な声でこう言ったのだ。
「……でやる」
「え?」
「……でやる…………恨んでやる。恨んでやる。恨んでやるよ。父さんをこんな目に合わせた奴も、父さんを嘘吐きだと言った奴も、父さんを嘘吐きと触れ回った奴も、父さんの研究をやめさせた奴も!」
 無機質だった声にだんだんと感情が上乗せされていくのが分かった。僕は受話器の向こう側に、呪いを込めた言葉を放った。
「みんなみんなみんなみんなみんなだ! 許さない。許すもんか。呪ってやる! 父さんを見棄てたこの世界全部、全部ぜんぶ全部、全部呪ってやるから!!」
 まるで受話器の向こうの何かに呼びかけるみたいに、僕は言葉を響かせた。受話器の向こう側へ流れたであろう僕の声には、確かに黒いものが宿っていた。
 それからはよく覚えていない。
 ただ、夢だったのか現だったのか。受話器の向こうで音を聞いた気がした。
 ぱりんぱりんと何かの砕ける音を聞いた気がしたのだ。
 ぱり……ん。ぱりん。
 ぱりん、ぱり……ぱりん。
 まるでタマゴの割れるような音だった。そういう風に記憶している。

 恨んでやる、と僕は言った。
 許さない、呪ってやると。
 受話器の向こうの世界で、何かが僕の言葉を聴いた。
 その何が目を覚まして――そして、

「なあ、コウスケのやつ、転校したんだって?」
「らしいなぁ、クラスの誰にも教えないで町を出て行ったってよ」
「あいつ、お父さんの事でずいぶん言われてたからな」
「俺、あいつの父ちゃんの事でからかっちまった、悪い事したかな……」
「オレも」
「私も……」
「僕も」
「でも、あいつのお父さん、みんなを騙していたんだろ?」
 ――ねえ、もうその話はやめようよ。
「え?」
 ――私、ツキミヤ君の話を聞くと思い出しちゃうの。
「何を?」
「どうしたんだよ? お前、顔色悪いぞ」
 ――私、見ちゃったの。
「見たって何を」

 車のエンジンが音を立てている。
 バックミラーに映し出された住んでいた町の風景、夕日に照らされたその風景がだんだんと遠ざかっていく。
 母の運転する車の後部座席にもたれかかった僕は、手に握った黒いぼんぐりに視線を移した。
 父さんから貰った黒ぼんぐりの黒は沈み行く日の光を鈍く反射していた。
 車がスピードを上げていく。逃げるように、上げていく。
 ――コウスケ、この先、耐えられないほど悲しい事やつらい事があったら、そこから生まれる感情はみんなこのぼんぐりの中に入れてしまうといい。
 父さん、僕は今、悲しい。父さんが居ない事がどうしようもなく悲しいよ。
 その上、僕は憎いんだ。通り過ぎるみんながみんな憎い。この世界を恨んでいるんだ。
 僕の中から黒いものが、次から次へと溢れ出してきて。
 だから僕は、このぼんぐりにそれを入れてしまおうと思う。
 でも、それを入れるのはその気持ちを忘れるためでもなければ、軽くするためでもない。
 第一、入りきらないと思うんだ。

 ――ツキミヤ君が引っ越した日、私、たまたまツキミヤ君を見かけたの。
「それで?」
 ――ツキミヤ君、ちょうど引越しのトラックを見送ったところで、自分もお母さんの車に乗って、家を出るところだった。私、どこに行くのって声をかけようとして、それでツキミヤ君のほうへ歩いていって……その時って、夕方でね、ツキミヤ君の影が長くなってた…………その時、私見ちゃったの。

 僕がぼんぐりにそれを入れる理由は、忘れないため。
 いつか、あいつらが父さんを嘘吐きだと言った事を忘れてしまっても、このぼんぐりを見るたび、僕は思い出すだろう。
 だから僕は、いつでも取り出して思い出せるようにそれをこの中に入れようと思う。
 ――そういう気持ちを溜め込んでいると、悪霊に魅入られてしまうんだよ。
 けれど、それはそれでいいと思う。
 それでこの気持ちを持ち続ける事が出来るなら。
 新鮮なままで、忘れないでいられるのなら。

 ――その時、私見ちゃったの。
 長く伸びたツキミヤ君の影から、青と黄色の光る眼がいっぱいいっぱい覗いてて、私を睨みつけていたの。

『それでは次のニュースです。発掘成果の捏造事件で、渦中のツキミヤ氏はいまだ姿を見せませんが、先日、ツキミヤ氏が指揮していた現場の仮設事務所が何者かに荒らされていた事が分かりました。現在、この場所は関係者以外の立ち入りが制限されていますが、中では発掘された大量のぼんぐりが割られ、その破片が散乱しており、管理側では悪質ないたずらと見て――――』

 ――間違いないって。
 あれは確かに、カゲボウズだったよ。