はるか昔より、陽昇りくる国に奇しき者ども住みたりはべりき。
 ある者獣の形成し、ある者魚の鱗持ち、ある者翼つけ空を飛びき。
 ある者火を吹き、ある者波起こし、ある者雷落としき。

 陽昇りくる国の南、豊かなる緑を抱き、豊かなるたよりを結ぶ土地あり。わたりはかの地、豊縁(ほうえん)と呼びき。この地にも奇しき者ども住みたりて、ここらの色で溢れてゐはべりき。

 されど、いつのころよりか二つの色啀み合ひき。
 この土地より多くの色、消えにき。

 今より語る物語、忘れ去なれきこの地の昔なり。

目次

抜け鴎 / 故にドーブルはホウエンの僻地にしかいないのです。
霊鳥の左目 / 後世に残されたのは左目だけを開けた霊鳥像でした。
樹になった狐 / 豊縁に流れ着いた悪狐。その足跡と遍歴。
飽咋のはじまり / 私のところにおいで。もうお腹をすかせることも無い。
遺された名前 / それは村の伝承(いいつたえ)、炎の妖退治され……
風、一陣 / いかにせん 都の桜も惜しけれど
幻島 / 島の名をキナギと言いました。
化けくらべ / 黒狐と九尾狐、化け勝負の行方は。
詠み人知らず / 私達は去りゆく者、忘れられてゆく者。
黄泉人知らず / 貴方に極上の一首を。
母の形見 / あなたの子は長生きできないでしょう。
鷽替えのはじまり / 鷽替え。それはいかにして始まったのか。