●嘘と赤頭 


 昔むかし、豊縁のある山道に夜な夜な鬼が出るようになって、人々は通る事ができなくなってしまいました。
 そこで人々は鬼退治をしようと考えました。何人かの操り人が名乗りを上げ、山道に向かいました。彼らは力自慢の獣達を連れていました。
 けれどみんな逃げ帰ってきてしまいました。
 彼らは言いました。暗闇の中では鬼の姿を捉える事ができない。しかも妙な術を使われるのだと。そうすると力自慢の獣達も本来の力が出せなくなってしまうのだと。
 相変わらず山道は通れないまま。人々は困り果てました。
 すると、近くの村に住んでいた若者が名乗りを上げました。
 私がその鬼を退治しましょう、と。
 けれど若者が連れていたのは一羽の赤頭(あかがしら)――今で言うスバメでした。
 小さな身体のちっぽけな鳥を指差し、人々は若者を笑いました。
「そんな赤頭一羽で何ができる。力自慢が皆逃げ帰ってきたのに」
 皆口々にそう言いました。
 ですが、翌日の朝の事です。若者は意気揚々と帰ってきたのでした。
 彼は言いました。赤頭一羽で鬼を退治した。山道は再び通れるようになった、と。
 けれど、人々は若者を信じませんでした。
「嘘を言うな。おおかた朝までどこかに潜んでいたのだろう」
 そのように言われ、若者は嘘吐き呼ばわりされたのでした。
 けれど、次第に人が村に訪ねてくるようになりました。僧侶に旅芸人、行商人、何かしらの使いの人々、彼らは暗くなっても山の向こうからやってきたのでした。
「夜の道に鬼が出なかったか」
 人々は尋ねましたが、皆首を横に振りました。
 少なくとも、山道からは鬼がいなくなったらしい。人々はようやく理解しました。
 けれどその一方、噂し合ったのでした。
 彼等は若者を遠巻きに見て、このように言いました。
「あいつは嘘を吐いている。赤頭一羽で勝てるはずがない。きっと強力な獣を隠し持っていたのだ」
 若者はやっぱり嘘吐きのままなのでした。
 
 それからです。
 人々が赤頭の事を鷽(うそ)≠ニ呼ぶようになったのは。